祈りの幕が下りる時(東野圭吾)

久々に東野圭吾の作品をじっくり読めた。
「容疑者Xの献身」以来、
「新参者」とか「赤い指」「麒麟の翼」などの加賀恭一郎のシリーズも
それほど面白く感じなかったし、
「真夏の方程式」にいたっては
湯川学、という人物が
それまでのものに登場していた人格とまったく変わってしまっているように思えて
途中で読むのを止めてしまった。
(もっとも、映画は見たが。)

そのあと
「プラチナデータ」ももうひとつ・・・
「マスカレードホテル」はこれはけっこう面白かったが、
後の東野作品には期待できないのかな?とさえ思っていた。

が、この作品はけっこう好感を持って読めた。
加賀恭一郎が従来の人格のままだったのがいい。
このごろ、シリーズの人気者たちはみな、本来の持ち味からはずれ、
役者のキャラに偏ってしまっていたが
これはそうではなく感じた。

犯罪やトリックは新しいところがない。
どころか、ほかのものですでに出てきたトリックもあるし、
ほかの人のチョー有名な作品を思い出してしまう部分もある。
しかし、その犯罪捜査だけを書こうとしているのではなく、
その向こうに加賀恭一郎本人と両親の生き様を見え隠れさせているところに
熟練してきた作者の手腕があるように思う。

この人の作品に出てくるのは人の「悪意」の部分が多いのだが
これはめずらしく心温まる場面がいくつかある。

いたわりあう姿は(身勝手はあるけれど)美しくさえある。

劇中劇であるところの「異聞・曽根崎心中」もまことにうまくはめこまれているし、
最後の手紙は、人への思いやりとはこういうことぞ、
という最高の場面を演出してくれる。
ただ、「手紙」がよく出来ているだけに
それほど『人のまこと』を説ける人の思いや行動力と、
それまでのその人の生活、犯罪との落差が不自然に思える。
こんな過酷な後半生に耐えていけるなら
それまでがあまりにも無力でありすぎないか?

人間はそういう不可解、身勝手なものなんだろうか?

それを差し引いても、全体は一気に読めてしまう筆力に満ちている。
東野圭吾も久々にいいものをだしてくれたな~~と思った。
ただし、ライトのエンタメ作品の範疇ではあるけれど。
Commented by shigematsu53 at 2023-01-31 12:48
私は東野圭吾の作品の中ではガリレオより加賀恭一郎シリーズが好きです。この作品も好きな中の一つです。
この作品では父親と娘、「赤い指」では母親と息子、「麒麟の翼」では父親と息子と、
親子関係を加賀刑事自身の親子関係と絡めて描かれており、この3作品は東野圭吾の中でも好きな作品なので、
にゃんこさんとは意見が違います(笑)。(「麒麟の翼」などは聖地巡礼で日本橋や水天宮に行ってきたほどです。)
初期の作品では「悪意」も面白かったと記憶しています。

世の東野圭吾人気作品は
①容疑者Xの献身②白夜行③手紙④秘密⑤流星の絆
とあり、そこは同意ですのでまぁ自分も世の中の標準的な東野圭吾ファンの感覚だと思ってます。
これらの作品がすべて映像化されているのは凄いと思います。なぜ東野の作品がこうも映像化されるのか考えていましたが、
ある映画プロデューサーが次のように語っていました。
東野作品が多くの人の心を掴む理由として「観客や読者を惹きつける魅力的な主人公や登場人物、誰もが共感しやすい普遍的なテーマ設定、
新鮮かつ斬新なオリジナリティ、先の読めない展開の連続、想像を超える結末……」と魅力を羅列。
「どの作品においても120分の映画が必要な要素を全て兼ね備えているだけでなく、情景描写や心情描写が非常にリアルかつ繊細なので、
読みながら映像として読者がイメージしやすく映像化を期待したくなる、さらなる知的好奇心を刺激する表現方法が、
小説でも映像でも愛され続ける理由の一つではないかと考えます」と。
これほどエンタメ的魅力を詰め込める東野圭吾はやはり凄いとしか言いようがありません。
ちなみにスキー関係の話は、自分は面白いと思ったことがありません💦
by nyanko715f | 2014-09-19 21:25 | 本はともだち | Comments(1)

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